恭子「なぁ、辻垣内にずっと聞きたかったことあってんけど」
智葉「なんだ、藪から棒に」
恭子「ああいや、大したことないんやけど、その黒いジャケットな、肩から掛けてるやんか」
智葉「ああ、これか? 今日は寒かったからな、羽織るものがほしいと思って着てきた」
恭子「えっと、そのな?」
智葉「なんだ、言いよどむんじゃない、らしくないぞ」
恭子「……なんでわざわざ上着を肩に掛けてるん? 普通に袖通して着たらええやんか」
智葉「……………………」
恭子「……辻垣内?」
智葉「…………いや、なんでだろうな?」
恭子「軽いな!? 亡き友人に誓ってとかそういう拘りの理由とか無いんか!?」
智葉「お前それドラマとかの観すぎだぞ」
恭子「なんでこっちが諭されるみたいな流れになってるん?」
智葉「そもそもなんでそういう話になったんだ?」
恭子「いや、高校時代から制服の上着肩掛けしとったやんか、自分」
智葉「ん、なんで高校時代のことなんて知ってるんだ?」
恭子「インハイの会場で臨海の制服を肩掛けにしたところを目撃して、その印象が強くてなぁ」
智葉「ああ、会場で見てたのか、試合の時は上着脱いでたはずだしな」
恭子「あの野暮ったいメガネおさげスタイルしてへんかったしな、いや誰やねんって感じやったわ」
智葉「なぁこれ馬鹿にされてるやつなのか?」
恭子「あの時目撃した君の名は。的な」
智葉「時にはHAYARIに流されればボケても許される訳ではないんだぞ?」
恭子「ところでそのジャケット男物やんな、そういうのが趣味なん?」
智葉「まぁ趣味というほどのものではないんだがな、取り回しがいい上着なので愛用している」
恭子「かっこええやん、似合うとるわ」
智葉「そうか、ありがとう」
恭子「これは学校の男も女も放っておかんな、とてもモテる匂いがする」
智葉「別にモテるために着ているわけではないし、というかなぜ女もなんだ、おかしくないか」
恭子「あれ、知らんかったん? 辻垣内ファンクラブの会員は大半が女の子やで」
智葉「……ちょっと待て初耳だぞ、なんだそのファンクラブとかいう悪の秘密結社は」
恭子「発起人かつ会長は学校長のおばさんやったかな、確か」
智葉「…………お前は入ってないよな?」
恭子「入るわけないやん」
智葉「それは良かったと言わざるを得ないが、胸を張って言われるのもなんだか複雑だな」
恭子「多治比の奴は会員番号一桁らしいけど」
智葉「多治比ィ!?」
智葉「多治比ィ!?」